訪問介護とは、要介護度の利用者が日常生活の上で困難とする動作や作業をヘルパーが訪問し介護を行うサービスです。
今回は、訪問介護の「自立支援型」について紹介します。
訪問介護のあり方
訪問介護はなぜ存在しているのか、その理由についてご紹介します。
なぜ訪問してまで介護をするの?
昨今、団塊の世代が75歳(後期高齢者)を迎える「2025年問題」がすぐそこまで迫ってきています。
まだまだ元気で若々しい高齢者も増えている反面、介護を必要とする高齢者も増加してきているのが現状です。
「子供達に迷惑をかけない」「事前に調べてサービスに興味を持った」等、様々な理由で施設入所を希望される方もいます。
しかし、多くの人は「できるだけ長く住み慣れた自宅で過ごしたい」という思いが強いようです。
家族のいる高齢者は、一日も長く一緒に家で過ごす事を、独居となった高齢者は思い出が詰まった家でゆっくり過ごしたいと其々の理由はある様です。
しかし、在宅生活に支障を来す様になってはそんな思いも叶えられません。
また、最初にも述べましたが「2025年問題」は少子高齢化が進み、国民の4人に1人が75歳以上となる事で様々な影響を及ぼすと言われています。
支えて欲しい人が増える一方、反比例する様に支える人が居なくなるという事は、日常生活に困難があっても支えてくれる人が少ない利用者側と、支えたくても人数も支援も負担も賄い切れない介護側とのパワーバランスが崩れて共倒れに成りかねないことを意味しているのです。
要介護認定を受けたとしても、住み慣れた自宅で日常生活上必要な動作や行為が少しでも自身で行える様になれたら、それは身体的にも日常生活を送る上でも生活の質を維持向上する上でも意義のあるものであり差し迫った問題に対し解答の糸口へと繋がります。
介護が必要になった方たちの生活の質を維持しながら、在宅で過ごせるようにするために訪問介護があるのです。
昔は「お世話型」今は?
介護保険制度が始まったのは2000年(平成12年)4月からです。
介護保険制度は「高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組み=介護保険」という形でスタートしています。
現在の介護保険も、「高齢者が尊厳を保ちながら暮らし続けることができる社会の実現を目指す」とされていて、高齢者も皆と同じ様に其々が地域で元気に自立し暮らしていく事ができる共存社会を目指しています。
基本的に介護保険は「高齢者の自立支援」を始めから謳っているのですが、昔から
・お年寄りは大切に ・お年寄りの面倒は若い者が看るもの ・子が親の老後を看るのは当たり前 |
という思考や伝承の傾向が根強くあります。
そのためか、訪問介護サービスもどちらかと言えば「お世話型」と呼ばれるサービスを行いがちでした。
事実介護認定を受けて訪問介護サービスを受ける事になった利用者は、生活を送る上でできない事をヘルパーにしてもらう=日常生活が送れる様になるというプランでヘルパーによるサービスを受けていた所が多かったのではないでしょうか?
上記の図の様に、要介護1も要介護5も同じようにできない事をしてもらっているばかりでは、どんどんできない事が増えていくだけです。
そして、介護度が増すに連れてサービスの内容も日数も増えていくという緩やかな悪循環に陥ります。
家族の形は変わっていきます。
大家族から核家族へ、子供も兄弟姉妹から一人っ子へ、結婚して家庭に入っても夫婦共働きが増え、隣近所が誰か分からないというようにご近所同士の繋がりも薄くなりました。
そのため、近年では孤立化が目立つようになっています。
そんな現実の中、上記にも述べた様な高齢者に対する昔からの思考・伝承が特に介護では反映されている事態が多い為、
「お年寄りにあれこれさせてはいけない=お世話する、面倒を看るのが介護だ」
という認識を世間一般では当然とされているのが現状です。
介護サービスも例に洩れず、「お世話型」という形で行われていたのも少なくはありません。
ここで間違えないで頂きたいのは、決してこの思考・伝承が悪いという事ではないということです。
古来より守り継がれてきた先駆者、功労者を大切にするという考えは大切であり、素晴らしい事です。
しかし、何でも大切にした結果「まだできる」事を「できない」事に変えてはいけないという事がとても重要です。
腰痛により重い物があまり持てず、歩行もやや不安定な利用者が訪問介護で生活援助を利用したとします。
お世話型のサービスでは、ヘルパーによる掃除機での掃除や洗濯物の取り込み整理整頓が行われた場合は利用者はただそのサービスをしてもらうのみです。
この場合、ヘルパーによって「清潔が維持できる」「安全に過ごす事ができる」「生活環境が保たれる」のみの授受一択となってしまいます。
例えば、利用者が軽い物が持てた場合は、柄の長い箒を使用して掃くことをお願います。
洗濯物の取り込みはヘルパーが行い、利用者はヘルパー見守りの下テーブルで洗濯物を畳む
整理整頓はヘルパーと共に行ってもらいます。
このように利用者も出来得る範囲で行動し今後に繋がる形にすれば、
「共に行う事で清潔が維持できる」
「共に行い確認する事で安全に過ごす事ができる」
「共に行う事で生活環境が保たれる」
という自立支援に向けたサービスの提供となります。
利用者の中には、何でもしてもらいたい人もいるかもしれません。
訪問介護サービスを契約して利用しているのだから、ヘルパーにはできない事を何でもしてもらいたいという気持ちは分かります。
しかし、ヘルパーは家政婦ではありません。
この先地域で暮らしていく上で、本当に困った事を地域社会全体で支え合い、日常生活を維持していく為の介護保険である事を今一度見直す必要があるのではないでしょうか。
その人なりの自立した生活を
訪問介護サービスのケアプランに謳われる「残存機能の維持」は、身体介護にも生活援助にも該当し、自立した生活を送る為に最低限必要とされる能力です。
介護度も人様々であり、生活環境や身体状況や経済状況、現症歴によって、できる事とできない事には差があります。
ケアプランに沿った訪問介護サービスを提供する事は当然ですが、ヘルパーは誰よりも利用者の近くで対応する為、利用者の心身の変化に気付きやすいものです。
現在の介護保険は自立支援型であり、
「その人が生活する上で行える動作をどうすれば継続していけるか?」
「プランでは共に行う作業であっても今の身体状況ではちょっと無理なのでは?」
「この部分はヘルパーが対応する形だけれど、一緒に行う能力があるのでは?」
等、訪問介護に入ったヘルパーからの報告でプランが見直され変わっていく事も珍しくはありません。
例えば、生活援助で夕食の下ごしらえをヘルパーが行うというプランがあるとします。
ケアプランに沿った訪問介護計画が立てられ、ヘルパーは計画通りに訪問介護に入ります。
長時間の立位が困難で台所に立つ事が難しいけれど、最後の味付けは自分でしたいという希望があれば、下ごしらえはヘルパーが行います。
しかし、実はイスに座って玉ねぎの皮を剥くやピューラーで根菜の側を剥くといった作業ができると
気付いた場合にヘルパーの取るべき対応はどうすべきなのでしょうか?
①ケアプラン通りに、そのまま調理の下ごしらえをヘルパーが行い、最後の味付けは利用者にしてもらう。 ②サービスの度にその場に応じて利用者ができる調理の下ごしらえ(イスに座っての野菜の皮剥き等)をしてもらい、調理を完成させる。 |
一応両方とも「形式上」は自立支援型の訪問介護サービスではあります。
不正解ではないのですが、①はほぼ「生活援助の調理」です。
ケアプラン通り、訪問介護計画書通りにサービスを遂行しているだけであり、別に悪い訳ではありません。
しかし、最後の味付け以外にも利用者のできる作業があると気付いていても、プランは下ごしらえがヘルパー対応となっています。
ヘルパーがプラン通りに料理を作ってしまうのは、自立を促すという自分でできる事を少しずつでも広げて利用者のできる能力を維持するのには弱いかもしれません。
②は自立支援型の訪問介護に見えますが、一点注意すべき所があります。
「サービスの度にその場に応じて利用者ができる調理の下ごしらえ」がきちんとサービス提供責任者やケアマネージャー、本人や家族に伝えられているはずです。
それに応じて担当者会議が行われケアプランの変更が為され了承されています。
ヘルパーが利用者の状態に気付いて自立支援に向けたサービスを行うには、ヘルパー単独の意思決定で勝手にサービスを変える事はできません。
きちんとサービスの内容変更の手順を踏まえた上で提供すれば、「生活援助で夕食の下ごしらえをヘルパーが行うというプラン」は「できる範囲での下ごしらえを共に行いながら調理する見守り的援助の身体介護」となります。
サービス単価は若干上がりますが、利用者の今後動ける可動域は広がりその人なりの自立した日常生活を過ごす事ができる未来へと繋がる可能性があります。
事前のモニタリングやアセスメントだけでは分からないことは多々あり、ヘルパーがサービスに入って初めて気付く事も少なくはありません。
テンプレート通りに介護サービスは行えませんし、また利用者其々に応じた自立の形があります。
訪問介護はその時の状況や状態によって日々変化していき、自立の形も並行して良くも悪くも変化していくという事を忘れないようにしましょう。
まとめ
今回は訪問介護における自立支援型のサービスについて紹介しました。
・高齢者の現状と2025年に迎える問題は、介護を求める人と介護を行う人とのバランスが崩れて共倒れの危険性がある。 ・高齢者であっても自分でできる事が増えれば、これまで通り在宅での生活を維持でき、懸念される介護の担い手不足による共倒れを回避できるきっかけとなる。 ・介護保険は2000年4月にスタートし、高齢者を社会全体で支え合う仕組みとして始まった。 ・現在は、高齢者も自立して日常生活を送れる様に地域と共存して暮らしていく形を目指しており、訪問介護もお世話型から自立支援型へ移行している。 ・お年寄りを大切にするという考えは大切だが、 何でも全てお世話をしてしまうのではなく、日常生活でできない事を支えて援助しできる事はそのままできるように維持を図る事が自立支援型の訪問介護サービスである。 ・訪問介護は在宅での日常生活を維持していく為の介護保険サービスであり、利用者の変化に気付いたヘルパーはケアマネージャーやサービス提供責任者、利用者、その家族等とよく確認し話し合い、利用者の状態や状況に応じた訪問介護を計画に則り提供していく必要がある。 |
訪問介護を利用する側もサービスを提供するヘルパーも、長年携わってくるとその利用者の状況や状態がよく分かってくるものです。
情が沸く事もあるかもしれませんが、その介護は本当にその人の為になるのか?ケアプランに沿ったサービスなのか?あの人はああしてくれた、こうしてくれたの言葉に揺らいでお世話型のサービスを提供してはいないか?等ヘルパーの判断が試される事もあります。
最初にも述べましたが、2025年問題はもうすぐそこにまで迫っています。
75歳以上の後期高齢者が爆発的に増えるまであと数年です。
高齢者であっても、特別な事をせずに、その人がその人なりに日々の生活を普段通りに送れる事が幸せであると考え、訪問介護サービスが行われる事を願います。