夜勤の日の朝は、いつもよりのんびりできる。仕事とは言っても、22時からの開始だからだ。
ただし、普通の休日とも違う。夜勤開始まで、徹夜で働くのに備えて身体を極力休めておく必要があるからだ。
というわけで、どこかに出かけるようなことはせず、できるだけ昼寝の時間を確保のに専念することになる…
夜勤開始までのこと
ただ、会議中なんかはすぐに眠くなるのに対して、いざがっつり昼寝しようと思うと、これがなかなかできないのだ。
外が明るいし、家族がいる場合もある。ついつい本を読んだり、Youtubeを見てしまったりする間に時間はどんどん過ぎ、気付いたら15時みたいなことがよくある。
そして慌てて目を閉じる。
それでもなかなか寝つけずに、寝れたと思ったら18時には目が覚める。結局、よく寝れて2時間みたいな感じになることも多いのだ。
22時には勤務を開始することになるので、最低でも10分前にはフロアで遅出勤務の職員さんから、その日の情報の「申し送り」を受けたい。
そこから逆算して、晩ご飯を食べ、お風呂に入り、洗濯物をたたむくらいは終わらせた上で、その他もろもろの支度をするということの時間配分を決めてやっていく。
で、おうちを出発し、施設に向かう。
夜勤前のおうちでの過ごし方で、どれだけHPを温存した上で夜勤に臨めるかが変わってくるので、かなり重要であると捉えている。
夜勤開始から0時まで
施設に到着するまでの道中も、「夜勤しんどいなぁ。めんどくさいなぁ。なんとか誰かと代わってもらえないかなぁ。」なんて考えている。
そんな願いもむなしく施設が見えてくる。玄関から入り、自分のロッカーで制服に着替えた段階で諦めがつき、「よしっ、朝まで頑張るしかないな」みたいな感じで覚悟が決まる。
タイムカードを押し、自分が勤務するフロアへ。廊下はうす暗く、入居者のみなさんの姿は見えない。22時までの勤務の職員さんが、夜のご様子について記録をつけている。
詰所(そのフロアの事務所のようなところ)に入り、業務連絡が書いてある「申し送りノート」に目を通す。それから遅出の職員さんに、その日一日の入居者さんのご様子を聞く。
体調の悪いかた、いつもと違うご様子のかた、ショートステイ(数日だけ施設に泊まりに来られること)のかた。夜間、特に注意してご様子を見させて頂くべきかたの情報をメモりつつ、頭に入れる。
申し送りが終わり、22時が過ぎると遅出の職員さんは勤務を終えて帰っていく。フロアには自分も含めた夜勤者だけになる。
夜勤者同士で声を掛け合い、「何かあればお願いします」という感じで協力体制を確認して持ち場につく。
自分が担当するエリアの入居者さんのご様子をお一人ずつ確認して回る(巡視)。
22時過ぎの時点でほとんどのかたがすでに寝ておられるが、たまにテレビを見たりして起きておられるかたもいる。体調不良のかたは特に注意してご様子を確認する。
朝まで何事もないことを願いつつ、1回目の巡視を終える。
お一人お一人が一日に使用するオムツを用意して各居室に配って回ったり、食事用のエプロンを干したり、洗濯物をたたんだりといった雑務をしているとすぐに時間が経過する。
夜勤中のメインの仕事は、ご用のあるかたが押して知らせて下さるナースコールに対応すること、巡視、オムツ交換、ご自身で身体を自由に動かすことの出来ないかたの身体の向きを変えさせて頂くこと(体位交換)である。
巡視は2時間ごと、そのタイミングでオムツ交換の必要なかた、体位交換の必要なかたにそれぞれ対応する。
オムツ交換は、お一人お一人の体格やオシッコの量、出るタイミングなどを考慮して、適切なサイズ・吸収量のオムツを選び、適切な時間帯での交換を決めていく。
なので、巡視ごとにオムツ交換をさせて頂くかたは一律ではないし、お一人お一人に、より適した交換のタイミングがわかってくるので常に変化する。
夜間帯に1回しか交換しないかたもいれば、3回交換するというかたもいる。
一方、体位交換については、2時間ごとに身体の向きを変えないと、同じ部位に体重による圧力がかかり続けることになり、褥瘡(じょくそう)=床ずれが発生する原因となってしまう。
この為、巡視ごとに必要なかた全員に体位交換をさせて頂くことになる。
簡単に表現すると、
22時:全入居者さん(20名)の巡視 オムツ交換5名 体位交換8名
0時:20名の巡視 オムツ交換6名 体位交換8名
2時:20名の巡視 オムツ交換5名 体位交換8名
4時:20名の巡視 オムツ交換4名 体位交換8名
6時:20名の巡視 オムツ交換6名 体位交換8名
といった感じ。オムツ交換の人数が時間ごとに変わる。
ただオムツ交換に関しては、ナースコールで「出たから交換して」と自ら言われて交換させて頂いたり、居室に入った瞬間にウンチのニオイがしているので、交換のタイミングじゃないけど交換させて頂いたり、というイレギュラーに常に対応するので、決められた通りだけで済むことはほぼない。
というわけで、0時の巡視に回る。この巡視が終わる頃にはみなさんが深く眠りにつかれ、フロアがより静かになっていく感じを受ける。
0時~4時まで
フロアで勤務している夜勤者は施設の入居者さんの人数によって違いがあるが、だいたいこの時間帯に、順に声を掛け合って休憩することが多い。
自分の担当するエリアに加えて、休憩中の夜勤者が担当するエリアのナースコールにも対応する。1時間ほどの休憩をそうやって回す。
ちょうど2時のタイミングで休憩に入る夜勤者が担当するエリアの巡視と体位交換は、休憩していない夜勤者が担い、オムツ交換だけは休憩後の職員がちょっと時間をズラして回ることになる。
穏やかな夜は、ほんとにただただ静まり返り、待機しながら普段できない書類の整理をしたりする時間を確保出来たりもする。
だが、ナースコールを何度も押してこられるかたや、落ち着かれずに何度もベッドから立ちあがって転倒のリスクが高いかた、大きな独り言をずっとしゃべっておられるかたなど、認知症からくるそういった症状が出るのもこの時間が多い。
なんとか落ち着いて寝て頂くような関わりをするが、なかなか落ち着いて下さらず、結局、朝まで対応が必要な場合もある。
”その日”に当たってしまったらほんとにヘトヘトになってしまうが、こればかりは誰にも読めない。
夜勤者全員の休憩が終わると、再びそれぞれ担当するエリアだけの業務に集中する。
4時~6時
各自、休憩を終えて4時の巡視に回る。
休憩を取ったにも関わらず、この巡視が終わってからの時間帯が、ぼくは一番睡魔に襲われる。「もうすぐ夜が明ける」という安心感からくるのかも知れない。
「眠いなぁ」と言いながら、朝の準備を始める。
食事用のエプロンの用意、顔拭きタオルの用意、お茶ゼリー(飲み込む力が弱いかた用の水分として)をタッパーからマグカップに取り分ける、朝食後の歯磨きの為の歯ブラシとコップの準備、ゴミの回収と新しいゴミ袋の設置、夜間帯のお一人お一人のご様子を記録に残すなどなど。
6時以降~
6時になると、ボチボチ起きてこられるかたがおられる。
ナースコールを押して「起こしてくれる?」と呼ばれるのでそのかたの居室に行き、朝の支度をお手伝いさせて頂く。
これまでの生活習慣から、目覚められるかたはだいたい順番まで決まってくる。
夜勤者もその順番を把握していて、まずはAさん、次にBさんという感じで居室に伺い、起きられるかどうかをお聞きする。
「まだ寝とくわ」という場合は「また後で来ますね」とお答えし、「もう起きるわ」という場合にそのお手伝い。
お一人目のかたがリビングに出てこられたタイミングで照明をつけ、カーテンを開ける。テレビを付けさせて頂き、お湯で温めた顔拭きタオルをお渡しする。
起きると希望されたかたに起きてリビングに出てきて頂いたあとは、そのかたがたの体温と血中酸素濃度(血液に含まれる酸素量)を測定し、体調の確認をする。
当日が入浴の日に当たっている場合は、血圧と脈拍も同時に測る。
そうこうしていると7時前になり、早出の職員さんが出勤してくる。その姿を見ると心底ホッとする。
早出の職員さんに夜間の入居者さんのご様子を伝え、まだしていない記録をして、夜勤の業務が終わる。
夜勤明け
夜勤に入る前はほんとに毎回、「しんどいなぁ」「めんどくさいなぁ」と嫌な気持ちになるのに、夜勤明けの「あぁ終わった~」という開放感はめっちゃ好き。
帰りには、自分へのご褒美として朝マックに寄ってしまうことも多いし、おうちに帰ってからダラダラ過ごすのも最高に気持ちいい。
夜勤について
夜勤は怖い。
特に体調不良のかたがおられたり、いつ亡くなられてもおかしくないような状態で「施設での看取り」を希望されているかたがおられると、「何かあったらどうしよう」という気持ちになる。
介護士を18年やっているが、その感覚に慣れることはない。だからこそ、何事もなく朝を迎えられた時の安心感が半端ないのかも知れない。
今日もまた、全国で夜勤に入っている介護士さんがたくさんいると思うと、勝手に仲間意識が芽生えてくる。