新しい常識は、非常識の中から生まれる

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介護サービスドットコム編集部

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新しい常識は、これまで非常識とされていたことの中から生まれると思っている。

今、常識とされていることに誰も疑いを持たず、ずっと同じことを繰り返すだけだと、それに合わない人やそぐわないことが出てきても、「非常識」というレッテルを貼るだけで終わる。

全てのことは時を経てどんどん変わっていくにも関わらず、常識に捉われすぎて変化を嫌えば、発展や進化、成長は見込めない。

ぼくは、非常識の中に価値を見出す人でありたいなって思います。

食事介助の人には食事用エプロンが当たり前

食事介助が必要な状態の方には、お口から食事がボロボロこぼれて服が汚れるのを防止する為に、ビニール製のエプロンを付けて食事をして頂くのが、高齢者施設の当たり前の食事の光景である。

黄色いお花の柄のエプロンや、赤いチェック柄のエプロンなど、色とりどりのエプロンが並ぶ。

ぼくはあのエプロンがどうにも苦手。

「認知症や身体の麻痺などで上手くお箸やスプーンを使えないけど、なんとかご自分で食事を召し上がられる方」や、「介護士がお口に運び入れるまでをお手伝い(食事介助)させて頂くが、どうしてもお口の中のものがこぼれてしまうような方」には、エプロンをして頂いてもいいと思う。

だが、介護士による食事介助でお口の中のものがこぼれてしまわない方であれば、介助する側がお口に運ぶ際にこぼれないように注意すればいいので、エプロンは不要だと思っている。

そこで。

「食事介助が必要な方にはエプロンをする」を当たり前だと思っている介護士さんは、一度「エプロンなし」を試してほしいなと思う。

エプロンがあると服を汚す心配がないので、スプーンに乗せる一口の量にあまりこだわっていない状態。

ところがエプロンがないと、自分の「さじ加減」によってはこぼしてしまう恐れがある。

そうすると、こぼして服を汚してしまわないように、お口の中に確実に入れてもらえる量しかスプーンに乗せないようにするし、その方の食べるペースをより理解しようとする。

結果、のどを詰めるリスクが減るし、食事のお手伝いが上達する。少しならタオルで拭けるしね。

高齢者のおフロは週2回が当たり前

「おフロに週2回しか入れないって、自分だったら嫌だな」と思って、入居者さんの入浴の回数を、週3回にしてみたことがある。

高齢者施設の基準で、「週2回以上の入浴」と定められているからと言う理由で、だいたいの施設で週2回が当たり前になっている。

これをどうにか打破できないかと考えた。

ただ、ぼくの勝手な思いだけで職員みんなの負担になってはいけないので、介護部のみんなに提案する際に、業務改善案も一緒にプレゼンした。

反対多数を覚悟していたが、意外にも賛同してくれる職員さんのほうが多く、

中には、「自分もどうにかおフロの回数を増やしてあげたいと思っていました」と言ってくれる人も。

役職者を中心に会議で話し合いを重ね、業務改善の方法を固めていった。

それから、他部署のかたにも協力を仰ぎ、1ヶ月限定で週3回の入浴をお試しした。

事前の打ち合わせが功を奏し、想像していたよりは負担も大きくならずに1ヶ月間を乗り切ることができた。

お試し期間が終わり、入居者さんに感想を聞いてみると、「1日でも多くおフロ入れるほうがいいわ」という答えかと思いきや、ほとんどの方が「2日に1回はしんどいわ」だった。

100名の入居者さんのうち、「週3回入りたい」と希望された方は3名だけ。

その3名の方だけ、お試し期間が終わっても、そのまま継続した。

それ以降、新しく施設に入居してこられる方には、入浴の回数を週2回か3回かをお聞きするというルールができた。

それでもほとんどの方は週2回を選ばれた。

「おフロは出来るだけ毎日入りたいというのが当たり前」だと思っていたが、高齢者になると体力的にしんどかったり、誰かに手伝ってもらって入らないといけないことの羞恥心などから、回数は週2回がほとんどの方の適切な回数なんだと、この取り組みをしたことでわかった。

そういう観点で定められたかどうかはわからないが、「高齢者施設の入居者さんの入浴の回数は週2回以上」という、常識的には不衛生と思われる国の基準が、実は正しかったということがわかった。

夜間不眠の方の対応は、睡眠薬が当たり前

夜、目覚めると10分とたたずにナースコールを押してくるAさん(男性)にみんなホトホト困っていた。

「おしっこ出た」と言われてオムツを見たら出ていない。

「足が痛い」と言われてさすったりしても納得されない。

ドンピシャな対応が出来ていない感じで、ピンポンピンポンが朝まで続く…

おしっこが出たと言って出ていないということから、①膀胱炎などの病気ではないかということで泌尿器科への受診が検討された。

同時に、

②夜になって足の痛みの訴えがあった場合にシップを貼る
③夜にしっかり寝て頂く為に、日中、できるだけリビングで過ごして頂く
④もともと服用している睡眠薬の量を増やすかどうかの検討


という対応が話し合われ、②③についてはすぐに実施した。

だが、④の睡眠薬については、適切な量に調整するのが難しく、就寝前に服用した薬の作用が起床時にも残っていて、足腰がフラフラで転倒される恐れがあったり、食事の際に意識がはっきりしていないことで喉詰めのリスクが高まったりするので、容易に頼るべきではないという考えから、どうにか避けたいなと思っていた。

さらにAさんに関しては、認知症があって言葉がはっきりしない為、しっかり訴えを読み取れていないと感じていた。

まずはAさんの頻回なナースコールの本当の意味を探り、その理由がわかって対応できれば、睡眠薬も不要になるのではないかと考えた。

ぼくは自分が夜勤の時に、Aさんの居室前に陣取って入口の扉のスキマから、Aさんをよく見てみることにした。

ナースコールを押されるまでの間に、Aさんが身体を動かされたり、独り言を言われたりする中に、訴えたいことのヒントが隠れているのではないか?

そう考えていたが、すぐに全く別の角度から問題がわかった。

Aさんの居室前で椅子に座って待機していると、どこからともなく、ボソボソと人の声が聞こえてくるのだ。

「何これ?誰の声?めっちゃ気になる…」

職員がコールで呼ばれて対応している時は、職員自らが発する声や音でボソボソが聞こえていなかったが、静かにしていると気になってしかたがない音量でずっとボソボソ聞こえてくるのだ。

そしてどうやらボソボソの合間にBGMも聞こえてくる…

そう、隣りの居室の方が聴いておられる深夜ラジオの放送だったのだ。

Aさんに「音、気になりますか?」と言うとウンウンと首の縦振りが止まらなかった。

やっぱりこれか…ということで、隣りの居室の方にお願いして、イヤホンをして頂くことにした。

それで一発解決。

その日から、Aさんのコールが鳴り出すと、隣りの方にイヤホンをお願いするという流れで、Aさんは寝てくださるようになった…。

偶然の発見だったが、入居者さんが何をどう思い、どう感じて行動をされているのかを知ろうとした結果、問題が解決し、不眠の方への当たり前である睡眠薬の服用自体をなくすことができた。

新しい常識はこれまで非常識と思われていたものの中にある

ぼくは子どもの頃から、よく「へそ曲がり」と言われてきた。

人と違うほうを選ぶ、人がやっていることをやりたがらない、流行っているものを敬遠する、というめんどくさい性格である。

ただ、流行っているものでも、「自分もいいと思えるもの」であれば、その流行りに乗っかるし、「人と一緒」が嫌なわけではなく、人と一緒を選択する前に、他にも何かないかを考えるひと手間がかかるだけなのだ。

そしてそれが仕事となると、「何を非常識なこと言ってるねん」と、特に上位層の方々や、変化を嫌うベテランさんから煙たがられる存在になってしまう。

でも、誰もがやってみようとも思わなかった「非常識」をあえて試すことで、実はソッチのほうが良かったという発見につながって「新しい常識」になっていったり、これまでの「常識」がやっぱり正しかったんだという根拠になったりするのを何度となく経験してきた。

そして、それこそが業務改善の提案や、自分自身の成長につながってきたように感じている。

これからも「非常識」と呼ばれるものも含めてフラットに見ることの出来る視点を養いつつ、入居者さんにとってよりよいケアにつなげたり、介護士がより働きやすい職場環境にしていけるように、「柔軟なへそ曲がり」であり続けたいと思います。