介護従事者が経験する嫌な対応の一つに「いわれのないクレームにどう対応するか」があります。
いわゆるモンスタークレーマーへの対応です。
利用者やその家族はお客様だから…
介護は福祉の仕事だから…
という気持ちから、理不尽だと思いながらもつい言われるがまま、相手の言うことを聞いてしまうことはありませんか?
本記事では、いわれのないクレームの内容や、クレーム対応を怠った場合のリスク、クレームへの対応方法について解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
介護従事者が経験するいわれのないクレームについて
クレームとは、サービスに対する苦情や改善要求のことです。
利用者やその家族からクレームを言われると、対応した職員は嫌な気持ちになるかもしれませんが、中には正当なクレームもあります。
正当なクレームは利用者への対応や業務の改善につながることもあるので
一概にクレーム=悪ということではありません。
ここで言う「いわれのないクレーム」とは、筋が通らない苦情や過剰な改善要求などの理不尽なクレームのことです。
いわれのないクレームには施設単位での毅然とした対応が必要です。
教育現場では、クレーマーへの対応を怠った学校側が、精神を病んでしまった教師から訴えられて敗訴する判例も出ています
(甲府市立小学校教諭事件:甲府地裁平成30年11月13日判決)。
厚生労働省も、近年のクレームの発生状況から、顧客からの著しい迷惑行為から労働者が被害を受けないようにする行動指針を示しています。
各事業所では、クレームが正当なものなのか、理不尽なものなのかを検討し、理不尽なものと判断した場合は適切に対処することが求められます。
参考:「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
介護従事者が経験するクレームの内容
ここでは、介護従事者が経験するクレームがどのようなものかについてgp紹介します。
過剰なサービスの要求
まずは過剰なサービスの要求です。
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上記のような、通常のサービスの範囲を超えた対応できない要求です。
家族としては本人を思う気持ちから出てくる要求なのでしょうが、本人のためにならないことや人員配置上むずかしい要求は断りましょう。
できることであれば、最大限の努力をして対応すべきです。
ですが、一度話を聞いてしまうと「あの時はやってくれた」「あのスタッフはやってくれた」「次はこうしてほしい」とどんどん要求がエスカレートしてしまいます。
現場の介護職員で判断がつかない場合は上長への相談後の返答として、相談員や他の管理職が毅然とした態度で臨むべきでしょう。
職員を罵倒・威圧する
「お金を払っているんだ」「責任者を出せ」「そのやり方は間違っている」など、スタッフの細かい所作をつつき必要以上に罵倒する家族がいます。
大声でスタッフを怒鳴り散らして自分の威厳を示すかのように振る舞う人もいます。
他の利用者に大きな影響を与えますし、なによりスタッフが安心して働けません。
中には介護士に対して殴る・蹴るといった暴力をふるう方もいます。
この場合は現場スタッフでの対応は難しい場合が多いので、管理者が責任を持って対応すべきです。
長時間拘束してくる
同じ要求を1時間以上続けたり、1日に10回以上電話をかけてきたり、面会に来るたびに同じ要求を繰り返したりする人や、訪問先から帰らせてもらえなかった事例もあります。
なにか納得できないことが起きたときに、スタッフに説明を求め、説明しても「納得がいかない」「嘘をついている」などと根拠のない主張を繰り返してくるのです。
他の事例でもそうですが、日時と場所、訴えの内容についてしっかり記録を残することが重要です。
できれば録音もしておくことをおすすめします。
セクシュアルハラスメント
介護職として働いているのは女性の割合が多いためか、利用者の中には介護士に対して性的な発言や接触をしようとする方がいらっしゃいます。
特に訪問介護など利用者の自宅に伺って介護を行う場合は、他の人の目がないため注意が必要です。
クレーム対応を怠った場合のリスク
いわれのない理不尽なクレームは、直接対応したスタッフだけではなく、事業所全体に深刻な問題を引き起こす場合があります。
ここではクレーム対応を怠った場合のリスクについて説明します。
当事者が働けなくなる
クレーム対応を怠った場合のリスクの1つは、当事者が働けなくなることです。
理不尽なクレームで利用者やその家族から罵倒されてしまったら、当事者はショックを受けます。
メンタルに不調をきたし出勤できなくなり、休職してしまう可能性もあります。。
場合によっては退職に至ってしまうケースもでてくるかもしれません。
周りのスタッフに不満が生まれる
クレームの対応を怠った場合、当事者だけではなくその他のスタッフからの不満も大きくなります。
理由は2つです。
1つはクレームを受けた当事者が働けなくなることで人員が不足し、現場が回りにくくなることです。
ただでさえ介護現場は人手不足です。
スタッフに休職や退職者がでてしまうとさらに人手が不足します。
残ったスタッフのシフト変更や残業が生じ、不満のもととなります。
もう一つは、残されたスタッフが、「自分がクレームを受けたときに施設は守ってくれない」と感じてしまうことです。
事故を起こさないように緊張感を持って毎日の業務にあたっている現場スタッフが安心して働けなくなるので、モチベーションが下がります。
「こんな職場だったら別の施設で働く」と退職に拍車がかかることもあるでしょう。
スタッフから訴えられる
スタッフがメンタルに不調をきたし、精神疾患に罹患した場合、事業所は安全配慮義務に違反したとして損害賠償責任を負う可能性があります。
冒頭で紹介したように、教育現場ではクレーマーへの対応を怠った学校側が精神を病んでしまった教師から訴えられて、敗訴する判例がすでにでています。
介護現場でも同様のことが起こりかねません。
このように、一つのクレームから、当事者が働けなくなり、他のスタッフからの不満が大きくなり、訴えられる可能性まであります。
はじめにクレームを受けるのは管理者ではなく一般職員のことが多いです。
一般のスタッフに対応を任せるのではなく、事業所として対応し、スタッフのケアまでしっかり行えるとよいでしょう。
いわれのないクレームへの対応方法
クレームを受けたときには、まずは内容の事実確認が必要になります。
感情的にならず、冷静に話の内容を聞き取り、事業所内のルールに従って管理者に報告しましょう。
報告を受けた管理者は非のある部分とそうでない部分を分析し、どのような行動を取るのか判断します。
理不尽なクレームと判断した場合は、施設で対応するのか、法人本部などの別の窓口で対応するのかを決めて対応していきます。
クレームを受ける時の注意点は以下の通りです。
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2人以上で対応する
対面でクレームを受ける場合、2人以上で対応するようにしましょう。
話の内容を正確に聞き取るためと、対応するスタッフの精神的な負担を軽減するためです。
クレーマーは自分の言うことを聞かせようと過激な言動をとる場合もあります。
話を聞く人と記録をする人のように役割を分けても構いません。
1人のスタッフに任せるのではなく、2人以上で対応しましょう。
録音する
話を聞くときは可能な限り録音を残しましょう。
話したことの証拠が残りますし、要求が正当なものであっても、相手の態度によっては警察へ相談する必要もあるためです。
暴行や傷害、脅迫や強要など刑法に触れる場合もあります。
相手に無断で録音しても違法ではありません。
どのような会話をしたのか後で確認できるよう録音しておきましょう。
約束はしない
クレーマーが自身の要求を通すため、その場で約束させられたり、サインを求められたりする場合がありますが、応じてはいけません。
「ここで返事をしろ」と言われても、上司と相談すると伝えます。
書面がある場合はコピーをとり返却します。
早く終わらせるためにと安易にサインしてしまうことがないようにしましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、いわれのないクレームの内容やクレーム対応を怠った場合のリスク、クレームへの対応方法について解説しました。
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クレームを受けると、スタッフは疲弊します。
大切な人材を失うことのないよう、1人のスタッフに任せるのではなく、組織的に対応できるよう準備が必要です。
最後までお読みいただきありがとうございました。