あなたは「訪問介護」に対し、どんなイメージを持つでしょうか?
今回は幾つかの事例を踏まえつつ、訪問介護が担う役割や現状、重要性を、ヘルパーの視点から紹介します。
訪問介護のヘルパーは何をする人?
ここでは訪問介護のヘルパーがどのような仕事をしているか、詳しく解説します。
「高齢者の身の回りの世話をする人」=半分正解、半分不正解です。
世間一般で「訪問介護」の「ヘルパー」と聞いたら、まず何を思い浮かべるでしょうか?
実際によく耳にしたのは、「家に行って世話をする人」「家で介護をする人」「高齢者の代わりに家事とか身の回りの事をする人」で、次に「きつい、しんどい仕事」とイメージするようでした。
家族や身内に介護対象者がいる場合は、訪問介護についてのイメージは介護の説明を受けている分理解があるのですが、まだ介護に携わる経験が無い世代では、よく言われる一般論やきつい労働のイメージから、ややマイナス傾向に捉えるものが多いようです。
では実際に、訪問介護のヘルパーは何をするのでしょうか?
「介護、身の回りの世話でしょ。」と答える人が大半です。
介護を行う、それは正解です。
身の回りの世話を行う、半分正解です。
では「家政婦とヘルパーの違いは何ですか?」と問われたら何と答えるでしょうか?
家政婦も契約した利用者の世話をする事もあります。
「洗濯物が溜まったから洗って欲しい。」「朝はいるけど昼と夕は娘(又は息子)がいないから、ごはんを作って一緒に食べて欲しい。」等、色々要望があるようです。
中には、契約者のご両親が高齢な為に、自分が仕事で不在の1か月の内、週5日の日中ずっと世話をして看て欲しいという要望もあるそうです。
訪問介護のヘルパーは、残念ながら上記のような希望通りに物事を行う事はできません。
「介護を行う事」は「利用者の希望通りの世話を行う事」では無いのです。
そして介護を受ける利用者やその家族も、正しい認識が為されていない事も多いのです。
介護保険の理念
訪問介護は介護保険サービスの一つです。
下記の図のように、3つのサービスに分かれ、主に身体介護や生活援助をメインに行われます。
訪問介護は介護保険法に則りサービスが行われています。
介護保険法には、第一章・総則の(目的)第一条に、要介護状態となった利用者が介護保険サービスを利用する為の目的を謳っています。
それは、「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」ということです。
要介護となり介護を必要とする状態にあったとしても、人として生きる為に自分自身でできる動作・作業・行動があればそれを維持するように努めることや、人としての尊厳を失う事が無いように日々の生活が送れるように支援する事が介護保険を利用してのサービスであると謳っているのです。
そして介護保険法の第四条に(国民の努力及び義務)があり、要介護状態になる事を予防する為、健康でいる事に努めるよう謳っています。
また、要介護状態になった場合においても、適切な医療または介護サービスを利用する事で、未だ本人が多かれ少なかれ自身で行える動作・作業・行動の能力の維持向上に努めるよう謳っています。
それを踏まえた上で、訪問介護のヘルパーは何をする人なのでしょうか?
介護を行う、それは正解です。
身の回りの世話を行う、半分正解の意味が分かりましたでしょうか。
介護認定を受けた利用者が、日々生活を送る上で難しいとされる動作・作業・行動を介助する事で、
「その人が、その人らしい、その人なり」の自立した日常生活を送れるように支援するサービスが訪問介護であり、その介助をする者がヘルパーなのです。
利用者又はその家族や身内の希望する、日常生活での困った事、こうしてくれたら便利だと思う事を代行する「何でも屋」では無く、介護保険という国の制度を利用しているサービスなのだという事の認識が求められます。
訪問介護ヘルパーのあるある、色々大変なのです。
先程の介護保険の理念でも述べましたが、訪問介護は介護保険という国の制度を利用しているサービスです。
つまり、介護保険法という法律を遵守した上で、利用者が自身の身体状態や生活状況に応じ、自立した生活を送れるように支援を行うものです。
しかし、実際に訪問介護でサービスに入ると、予想しない事態や心身共に参ってしまうような問題に直面する事があります。
他にも色々ありますが、訪問介護サービスでヘルパーとして入り、こういった場に直面した際は、その状況や場に応じ、臨機応変に対応していく事になります。
多くの場合は訪問介護事業所に報告や連絡、相談する必要性があるものばかりですが、なかにはサービス提供責任者やケアマネージャーに報告や相談し、サービス内容の見直しや利用者への説明対応が必要になってくるものもあります。
特に訪問介護サービスに入って暫く経過し、利用者との対人関係や状況に慣れてきた頃、慣れが生じてそうなってしまう傾向もあるようです。
ヘルパーにそう言う事で、(あの人はああしてくれた、こうしてくれた等)このヘルパーにもあれこれ動いて貰おうとする意を持つ場合もあります。
また、ヘルパー自身の技術力や対応面の未熟さへの苦言である可能性もあるので、言われた事は一度受け止めて、どう介助すべきか対応の仕方について考える事も必要になります。
夏冬の訪問でよくある例ですが、その状況が利用者にとって、その季節においての過ごし方であれば、その状況で訪問介護を行うようになる事もあります。
あまりに環境が適しておらず、脱水や熱中症、または火事などの生命の危険を孕む場合は、できる限り環境を改善していくように支援していきます。
しかし、なかなかスムーズにいかないことが多いです。
「ずっとこれで生活してきたから大丈夫」と、長年生活してきた経験を根拠とし、不変を望む相手を納得させるのは大変です。
そのため、サービス提供責任者やケアマネージャー、身内の方との協力の下で意見を聞きながら対応していくようにします。
一般的には問題行動を言われる行為・行動がある場合、なぜそういう行動に出るのか、なぜそのような暴言や妄想被害を言ってしまうのかという事をチームでカンファレンスをする必要があります。
ヘルパーも利用者も同じ人間ですので、何か利用者本人にとって不都合が生じていることや、思わぬ障害が潜んでいる可能性があります。
または、ただ単に男尊女卑の考え方が強い等の様々な理由からそういった行為・行動を起こす事もあります。
双方が怪我をしてしまってはいけないので、早めに対応策を講じ、決して一人で解決しないように抱え込まないように訪問介護事業所側もヘルパーをフォローしなければなりません。
緊急性が高い対応を求められることもあります。
家にいない理由は人それぞれですが、「急に病院受診で出掛けた」「ちょっと散歩に出掛けた」
「訪問介護の中止の連絡を忘れて家族や身内と外出されている」等、無事が確認できるものはまだ良いです。
しかし、徘徊傾向のある人が突然出て行った場合や、ベランダや屋内のどこかで倒れていた場合等、利用者の身の安全が守れない、危険に晒されている場合は早急の対応が必要になります。
救急対応が求められ、近くに家族や身内がいない場合はヘルパーが早急に119に電話するなど、然るべき対応を取り、いち早い利用者の安全を守るように動きます。
介護保険を利用してサービスを受けた利用者の支払う費用は、1割負担若しくは所得に応じて2~3割負担となっています。
家政婦や家事代行と比べると金額は低いですが、利用者にとって出費には変わりありません。
お金を出してサービスを受けるという意味では家政婦や家事代行と混同されてしまいがちになりますが、ただ身体介護を行っている、生活援助を行っているだけではありません。
介護保険制度を利用して行うサービスだからこその責任と、訪問介護を行う資格を持つヘルパーだからこその対応が「訪問介護事業」にはあるのです。
ちょっとした言葉が大きな力と成長に。
上記でも紹介した思わぬ事態や状況、問題に直面する事も多々ありますが、訪問介護サービスに入って感謝の気持ちを耳にしたり、利用者の状態や状況が改善されて良い方向に進むと仕事とは言え嬉しくなるものです。
「ヘルパーさんが入ってくれてから、入院しないで良いようになった。」
「家族からは色々怒られるけど、ヘルパーさんは話を聞いてくれる。」
「このままずっとこの家に住んでいけたらいいなぁ。」
「ありがとなぁ。」
「退院してきたから、また宜しくな。」
「ヘルパーさんがアンタで良かったわ。」
会話や介助の節々でポロっと言われたり、帰る間際に何気なく言われたりすると、その言葉でヘルパーのやる気も出ます。
どうしたら利用者の状態が悪くならないようにできるかを考えて行動したり、住み慣れた自宅で望む生活を送れるようになるかを共に考えていけるようになるのです。
訪問介護事業所もヘルパーも前向きな力と成長を手にし、利用者は自立した生活を送れるようになる「win-winの関係」となるでしょう。
まとめ
色々な例を交えながら訪問介護が担う役割や現状、重要性をヘルパーからの視点ベースで紹介しました。
・訪問介護の仕事は、あくまでも利用者の身体介護や生活援助を行う事で、家政婦や家事代行の仕事と似ている部分はあっても希望通り全ての家事や世話を行うものではない。 ・訪問介護は介護保険サービスの理念である「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」に沿って利用者へ介護サービスを行う。 ・状態の悪化を予防し、また悪化を防げず進行したとしても、出来得る限りの能力の維持向上に努めなければならない。 ・訪問介護サービスに入ると、予想しない事態や心身共に参るような問題に直面する事が多々ある。 ・そのような事態や問題も解決する為の対応方法や考え方がある。 ・介護保険制度を利用して行うサービスだからこその責任と、訪問介護を行う資格を持つヘルパーだからこその対応が「訪問介護事業」にはある。 ・利用者の何気ない言葉や感謝の気持ちは、訪問介護事業に関わる人達の力と成長に繋がる。 |
目に見えるようなはっきりとした成果は表れずとも、利用者やその家族や身内が、緩やかに穏やかに毎日を「当たり前に」自立して過ごせるようになります。
サービスを行う介護事業(訪問介護事業所やヘルパー、ケアマネージャー等)側も、その支援を責任を持って担う事で、双方が「より良い関係を築き上げられるパートナー」となります。
訪問介護で誰よりも利用者と接するヘルパーは、もっと評価されるに値するのではないでしょうか。
どうか誇りを持ち続け、胸を張って介護サービスに携わって下さい。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。