「施設で認知症の方のプライバシーや自由って守られてるの?」「もし自分の母親が認知症になったらどうなるんだろう?」と不安になりませんか。
今回の記事では認知症のかたの尊厳に関して、介護歴10年の介護福祉士が分かりやすく解説します。
介護現場で重度認知症のかたの尊厳は守られているのか?
「重度認知症」と「尊厳」という言葉、介護の世界ではよく聞く言葉です。
まずは言葉の意味を確認していきましょう。
重度認知症とはどういう状態?
重度認知症の方は自分のいる場所や時間、人の顔の判断が難しくなります。
それに、トイレや食事、衣類の更衣、お風呂といった日常生活を営む上で必要な生活動作を一人で行うことが困難になります。
普段の生活を営む上で介護者の助けが常に必要な状態です。
尊厳とは何か?
尊厳とは、その人の自尊心を守り人間を人間として扱うことです。
当たり前のことですが、お互いを尊重し自分がされて嫌なことは相手にもしないことです。
言葉の意味を押さえた上で介護の現場で重度認知症の方の尊厳が守られているか考えてみましょう。
結論としては認知症の方の尊厳は完璧には守られてはいないのが実情になります。
なぜなら「施設のハード面」や「施設のルール」、「介護職員の質」に左右される側面が大きいからです。
尊厳を「守れている施設」もあれば、「守れてない施設」もあり、「尊厳を守れている職員」もいれば、「守れてない職員」もいます。
なぜ重度認知症のかたの尊厳は守られないのか?
①どこかで重度認知症の方を下に見ている?馬鹿にしている?
当たり前のことですが人を馬鹿にするような行為は許されることではありません。
ただ、職員の中には重度認知症の方に対して、見下すような態度をする職員がいることは否定できません。
では、どのような心理が働いて重度認知症の方を見下すのでしょうか。
考えられる主な心理的な理由として、以下の内容が考えられます。
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このような介護職員の心理が原因となり、重度認知症のかたの「羞恥心」や「自尊心」、「自由」を無視したような対応に繋がると考えられます。
②重度認知症の方は意思表示をすることが困難なので介護士が主導ですべて決めてしまう
私たちは自分で意思表示をして、日常の生活を選択しています。
「いつ起きていつ寝るか」「いつ何を食べるか」「いつお風呂に入るか」など、様々な選択を自分の意思で判断して行っています。
しかし重度認知症のかたは自分の意思を表示することが困難な状態です。
頭では自分の考えがグルグルと巡っているのに肝心の言葉がなかなか出てきません。
本来であれば過去の生活歴や趣味嗜好に配慮したうえで介護職員が認知症の方の選択をサポートするのが理想です。
ただ、現状では介護職員が独断で判断している部分が多いのではないでしょうか。
③施設のルールやハード面で尊厳の保持が難しい場合もある
介護施設では施設の種類により、入居者様の人数が多い施設もあれば少ない施設もあります。
ただ、基本的にどの施設でも集団での生活になります。
このような状況の中で、一人一人の趣味嗜好や要望に応えるのは困難な状況です。
重度認知症の方の尊厳が守られてないってどういう状況?
では実際に尊厳の保持が守られてないってどういう状況なのか具体例を交えて解説していきます。
トイレ
排泄はズボンを下げ下半身を露出させるため、羞恥心に配慮すべき行為であります。
ただ、重度の認知症の方になると自分でズボンを下ろすことも困難な状態です。
それに便器という認識もできない方もいます。
そのため、介護職員がトイレへ付き添い介助するケースがほとんどです。
他人が隣にいる状態で用を足すことは誰でも嫌なものです。
お風呂
お風呂に入ることも羞恥心に配慮すべき行為で、誰しもが他者に裸を見られたくないでしょう。
ただ、前述したトイレと同様に認知症のかたは一人でお風呂に入ることが困難な状態です。
そのため、介護者に身体を洗ってもらうことになります。
大きい特別養護老人ホームなどでは、大浴場に複数の利用者様を入れる所もあります。
とても入居者様の羞恥心に配慮しているとは言えない状況です。
不適切な声かけ
認知症の方に対して不適切な声かけをする職員がいることも否定できません。
例えば、食事の時に「あーん」と赤ちゃん言葉を使ったり、トイレに誘導するときに「しっこ行こうか」など、羞恥心や自尊心を傷つける発言をする職員がいます。
逆の立場になったら馬鹿にされているようで嫌な気分になるのではないでしょうか。
相手の自尊心を傷つけないためにも言葉遣いには細心の注意を払うべきです。
本人の選択の自由が制限されている
介護施設では集団での生活になるため、施設のルールやタイムスケジュールで運用されていることが多いです。
例えば以下のような内容があります。
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私たちのような健常者から見ればいかにも窮屈な生活です。
言葉や向精神薬での抑制
認知症の方には様々な症状があります。
同じ言動を繰り返したり、帰宅願望だったりと様々です。
なかには徘徊する認知症の方が歩き回り他者の居室に入ったり、他者の私物を盗ったりすることもあります。
介護職員が徘徊などを制止するために「動かないでください」「立ったら危ないですよ」と制止する事もあります。
夜間帯など介護職員の人数に限りがある場合は、向精神薬で行動を抑制することもあります。
どうすれば重度認知症の方の尊厳は守られる?
ではどのようにすれば重度認知症の方の尊厳を守れるのでしょうか?
「学校からイジメをなくそう」と同じようになかなか難しい問題ではあります。
ここでは尊厳を守るための3つのポイントをご紹介します。
①職員の教育
接遇やプライバシーに関する研修を繰り返し行うことによって、他者の尊厳や自尊心を守ることの大切さを潜在意識まで刷り込むことが大切です。
研修を定期的に行うことが難しい施設もあると思います。
そういった場合には、朝礼などで遵守すべき行動規範を読み合わせるのも良いでしょう。
事業所のビジョンや目指すべき介護を繰り返し伝えることは重要です。
あと、不適切な職員は採用しないに尽きます。
②職員間でお互いを相互評価する
まず「相互評価で何を評価するのか?」が重要です。
「利用者様を制止する言動はないか」「利用者様を馬鹿にした言動をしてないか」「羞恥心に配慮した介助ができているか」など…。
こういった項目を職員間で無記名で評価することにより、不適切な言動の抑止力になるのではないでしょうか。
もちろん賞与の査定基準にすることも検討して良いでしょう。
③職員一人一人が心の余裕を持つために無駄な業務は減らす
人間誰でも忙しくて時間に追われると、心の余裕が無くなりイライラするものです。
そういう時に入居者様に対して不適切な言動をすることがあるのではないでしょうか。
「ちょっと待ってください」「座ってください」と行動を制限する発言をしたり、利用者様の意思も確認せずに勝手にトイレに連れて行ったりと様々あるかもしれません。
忙しいことで一番重要な入居者様の「尊厳」や「自尊心」「羞恥心」を守れないのであれば本末転倒です。
思い切って利用者様にとって不必要な業務を排除してみるのも重要です。
「委員会」や「無駄な会議」、「書き物」「昔からの慣習で行っている業務」など削れる業務は削りましょう。
削って不都合があれば、また再開すれば良いのです。
まとめ
ここまで重度認知症の方の尊厳の保持に関して解説してきました。
現状では尊厳を保持することは難しい側面があります。
ただ、取り組み次第では防げることもあります。最後に復習していきましょう。
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最後までお読み頂きありがとうございました。