徘徊は認知症の症状の一つです。
外や家の中をうろうろ歩きまわるため、介護者の介護疲れの要因の一つに挙げられています。
一人暮らしをしている親に認知症がある場合、普段の生活について心配になってしまう方も多いのではないでしょうか。
本記事では、徘徊中に電車にはねられてしまった方の判例を紹介し、徘徊のリスクや原因、対処方法について解説しています。
認知症のある方を介護している家族や介護職におすすめの記事ですので、ぜひ最後までお読みください。
認知症とは
認知症は、一度発達した脳が病気や障害などさまざまな原因により認知機能が低下し、日常生活全般に症状が出てくる状態のことです。
2020年現在、日本国内の65歳以上の人で認知症のある人は約600万人いるとされています。
これはおおよそ6人に1人が認知症になっていることになり、2025年には700万人、5人に1人が認知症になるといわれています。
認知症の症状とは
認知症の症状には、中核症状と周辺症状の大きく2通りに分けられます。
ではどのような症状なのかを確認していきましょう。
中核症状
中核症状は、記憶の障害や、時間や場所がわからなくなる見当識障害や理解力、判断力の低下などがみられる症状です。
脳が萎縮したり脳卒中で損傷を受けたりすることで症状が出現することがあります。
中核症状には以下のような特徴があります。
- 数分前や数時間前の出来事を忘れている
- 同じことを何度も言う
- 同じ物を何度も買ってくる 等
周辺症状
周辺症状は、中核症状を原因として二次的に起こる症状のことです。
記憶や見当識があいまいになることで不安を感じ、心理面や行動面に症状がでてきます。
- 時間や場所の認識がなく、自分がなぜここにいるのかわからなくなり
とりあえず歩き回った結果徘徊に至る - 財布をどこに置いたかわからなくなり、身近にいる子や嫁が持っていってしまったと
取り繕うことで物盗られ妄想に至る - これまで受けていた介護でも、理解力が低下し何をされるのかわからず
介護者の手を払い除けた結果介護拒否と言われる
認知症のある人の介護でもっとも大変なことの一つは、この周辺症状への対応かもしれません。
徘徊は周辺症状の一つ
徘徊は周辺症状の一つで、目的もなくうろうろ歩き回ることとされています。
介護者からするとただ歩き回っているように見え、何度も繰り返したり、制止が効かなかったりすることがあります。
そのため、介護者にとっては負担を感じやすい症状です。
徘徊に至る要因は、記憶力や見当識が低下することで、その場で起きていることの理解や判断ができない不安から、徘徊という行動をとっていると考えられます。
自分がどこにいるのか、何をしていたのか、周りにいる人が誰だかわからないという状況の中、とても大きな不安を感じている中での行動と言えるでしょう。
安全に歩ける環境であればまだよいですが、認知症により危険に対する認識がなくなってしまうこともあります。
歩道があるのに車道を歩いてしまったり、信号を守れなかったりすることもあるかもしれません。
住み慣れた集合住宅の敷地内を散歩して自宅に戻れなくなる事例も多くあります。
徘徊はなぜ起きる?
徘徊が起こる原因には、いくつか原因が考えられます。
身体的な違和感が原因
徘徊する原因には何かがしたいと思っていたのに、そのことを忘れてしまうため、その違和感により徘徊してしまうのです。
この場合、排泄や飲食をすることで気持ちが落ちつき、徘徊が落ち着くことがあります。
排泄が原因の場合は、主治医に相談をして排泄に関する薬を飲むことで落ち着く場合が考えられます。
日々の排泄など体調管理を行うようにしましょう。
心理的なストレスが原因
夕方や夜になると気持ちが落ち着かなくなり、外に出かけようとする方がいらっしゃいます。
これは認知障害だけでなく、不安や焦燥感などを感じてしまい、その衝動が徘徊になってしまうのです。
ストレスの内容には以下のような事柄があげられます。
・過去の習慣によるもの
・若い時や数年前の記憶などが蘇ることで誤認してしまう
・判断力や記憶力が低下してしまったため、行きたい場所を忘れてしまう
・不安や不満などによるもの
普段からよく観察し、何がストレスになっているのかを考えたり、ご本人に話を聞いてみてください。
ストレスを軽減することができれば、徘徊の症状を改善することができるかもしれません。
環境によるもの
環境が変わることで居心地悪く感じてしまい、徘徊になることがあります。
ご本人が過ごしやすい環境にし、居心地よくしてあげることで徘徊を抑えることができます。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は人格や社会性をつかさどる前頭葉と、言語や記憶、聴覚をつかさどる側頭葉が萎縮してしまう病気です。
前頭側頭型認知症になると、以下のような症状が現れます。
・人目を気にしなくなる
・感情が抑制できなくなる
・同じことを繰り返す
前頭側頭型認知症は病気自体が原因で徘徊行動を起こしてしまいます。
徘徊に関する判例(2021年3月28日 京都新聞)
2007年12月7日、愛知県で、妻と二人暮らしをしている高齢男性が電車にはねられ死亡しました。
男性には認知症があり、デイサービスから帰宅後まもなく、妻がうたた寝をした6〜7分の間に外出し、事故に遭っています。
所持金はなかったものの、改札をすり抜けて電車に乗り、一つ先の駅で降りたあと、ホームにおり、フェンスの扉を開けて線路に入った様子でした。
そのため、トイレを探して迷い込んだと見られています。
一審では妻の居眠りが過失にあたり、介護方針を決めていた別居の息子にも監督義務があったとして、2人は約720万円の支払いを命じられました。
二審でも、対象者から息子を外し、支払額を半額の360万円とした判決がでています。
この判例は、認知症のある方の介護をしている介護者から大きな反響があり、社会問題となります。
徘徊のある人に対して24時間見守り続けなければならず、家に鍵をかけて閉じ込めておくしかないのかと、ニュースでも連日報道されていました。
その後の2016年3月、最高裁は請求を棄却し、認知症の人による事故で防ぎきれないものまでは家族が責任を負わない、とするはじめての判決が下されたのです。
徘徊への対処方法
上記判例では逆転勝訴で無罪という判決がでましたが、事故が起きてから判決がでるまで9年かかりました。
この間の家族の不安は想像に絶します。
大きな事故や裁判に至らなくても、徘徊に関するトラブルは後を絶ちません。
そして、徘徊自体をなくすことは自宅や部屋に鍵をかけて閉じ込めてしまう以外には難しいでしょう。
では、認知症により徘徊のある人に対してどう対処していけば良いかを、一つずつ解説していきます。
関わりによる対処方法
徘徊している本人に対し、介護者の見守りや声かけで対応をします。
辻褄の合わないことを行っている時でも、否定はせず本人なりの徘徊の理由を理解しましょう。
なぜ歩いているのか理由を聞くだけでも安心できる場合もあります。
帰宅願望などで「家に帰ります」と言いながら歩いている場合でも、「外は寒いので上着をきましょう」「車を呼んでいるからお茶を飲みながら待ちましょう」などと、気を逸らすことも効果的です。
サービスや福祉用具による対処方法
どんなに上手に介護していても、1人で認知症のある方の介護を続けるには限界があります。
デイサービスやショートステイなどの介護保険サービスをうまく使い、プロに任せられる部分は任せましょう。
少しでも介護から離れる時間を作り、介護者が自由に使える時間を作ることも大切なことです。
また、ベッドや自宅の出入り口などにセンサーを設置することで、徘徊に速やかに気づけます。
認知症のある本人を閉じ込めるのではなく、動きを察知して対処することが可能です。
地域と連携する対処方法
徘徊だけでなく、認知症のある方の介護をしていくには、地域との連携を図ることが大切です。
家族だけで介護していくにはいずれ限界がやってきます。
本人が不安がっていたら声をかけてもらうよう近所の方に話をしておいたり、ゴミの出し方を間違えているようであれば、否定しないように指摘してもらったりすることも効果的です。
家族だけが抱え込むのではなく、うまく地域と連携しその方をケアすることで本人も家族も安心して生活できます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、認知症による徘徊から電車にはねられ訴訟に至った判例や、徘徊への対処法について解説しました。
- 認知症の症状には中核症状と周辺症状がある。
- 徘徊は周辺症状の一つで、介護者にとっては負担感の大きいものである。
- 周囲から見ると、目的なく歩き回っているように見えるが、認知症による記憶や見当識
理解力や判断力が低下したことで起こる不安から出てくる症状である。 - 対応としては否定するのではなくその人の不安を取り除く関わりが必要。
- 介護者だけが抱え込むのではなく、介護保険サービスやセンサーの活用
地域との連携が徘徊への対処方法として大切である。
今後認知症がありながらも地域の中で暮らしていく方は増えていきます。
徘徊で自宅に帰れなくなる場面に出くわすこともあるかもしれません。
地域によっては徘徊と呼ばずに「ひとり歩き」と言う地域もあります。
認知症のある方の不安を取り除けるよう対処し、本人も介護者も安心して生活できるように関わっていくようにしましょう。